異国の湖畔にたたずんで眺める世界 (ヨーロッパ撫子)

孤立したように感じられるこの国で、底をついた日本食の棚を見てため息ついています、それでもこの国、好きになって来ました

北欧でリノベーション 「高級ホテルのようなバスルームに仕上げて下さい」

 「高級ホテルのようにバスルームを大理石で敷き詰めたいの」

  というと建築材料の小売店の店員は決まってこう答える。

 「あんた、それは危ないよ。濡れてる大理石の床がどれほど滑るか知ってるの?」

 

 「バスルームで走るつもりはありません。4平方メートルしかないので走りたくても走りません」 

 と、私は食い下がり大理石を大量に注文した。建築材料の店ではなく石の専門店からである。

  

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 こちらでは自分の住んでいるマンションの売却を考える時に、大抵の人はキッチンとバスルームをリノベーションしてから競売に出す。

 

 水回りを考慮しなくて良い部屋であれば、自分でペンキを塗る、壁紙を張り替える等の作業であるので業者に頼む必要もないのであるが、水回りとなると専門の人に任せた方が断然安全なのである。

 

 例を挙げると、自分で床暖房を敷いた素人が感電して亡くなった、自分で突貫工事をしたために水道管が破裂し多額の損害賠償を負うことになった、換気方法が基準に沿わぬため天井および見えないところがカビだらけになった等、笑い話では済まない。

  

 スウェーデンでバスルームのリノベーションをすることはかなり難儀である。

 ほんの一か月間のプロジェクトではあったが心労で足労と重労で痩せたかもしれない。

 心労ではなかったがストックホルムの、知っている限りの全てのタイル屋に足を運び、サンプルを買い集めたことは足労と重労であった。私はタイルよりも石に興味があったので、何枚もサンプルを買うとかなりの重さになった。

 

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 分譲マンションとはいえ、建物をいじる場合は、マンション委員会の許可を得なければならない。その申請を審議するための会議は多くて一か月に一回しか開かれない。そのうえ、必ずしも申請が許可されるとは限らない。

 

 そしてまずは最初の難関、リノベーションをしてくれる業者を探すのが一苦労なのである。外国人女性の私が、その業界にそうそうコネがあるわけでもないのでネットで探すしかない。ネットがあるだけでもありがたいが。

  

 次に、候補として選んだ業者が水回りの工事をする資格を持っているか調べる。

 それはKeramikrådetという機関のホームページでその会社が加盟しているか否かを調べる。同類の社名が多く、実際の社名と違ったりするため、一応、問い合わせして再確認する。

 

 そして何社かとアポを取って実際にバスルームを見てもらい見積もりを出してもらう。その際、下のパターンの業者はお断りした。

  

 連絡が付きにくい。

 見積もりが遅い。

 見積もりが明確ではない。

 予算を大幅に超えている。

 予算を超えていると言うと即座に大幅値引きをする。

 事務所が遠い。

 フィーリングが合わない。

 

 ようやく一社を選出し「おたくにお願いします」と連絡すると、

 

 「あんたのところは請け負いたくない」

 と、向こうから断られる始末。

 

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 しかし、これは実は驚くことでもないのである。

 

 私が以前住んでいたところはストックホルム市の中心であった。これが何を意味するかというと、工事の人にとっては駐車場を探すところが非常に難儀であり、さらに路上駐車でも駐車料金は掛かるため駐車料金が馬鹿にならないということなのである。

 以前、電気屋に来てもらった時「駐車場代が馬鹿高い」を反復されたので、私も多少いらついて「経費で落とせるはずでしょう」と応戦した。

 

 さらに、以前住んでいたところは建物内(大抵は共同洗濯室の近く)に客用のトイレが設備されていなかった。すなわち、工事の人たちにとってはトイレを取り外してある数週間、どこかのレストラン等で用を足さなければならない、という不便を意味していた。

 

 評判のよい業者に片っ端から拒絶されたあと、諦めかけていた矢先、かなり大手の業者から連絡が来た。

 

「あんたのメール、見落としていたよ。明日でも見に行く、いいかい?」

 と言う。

 

 あちらこちらに宣伝を出しているような大手で大きなマンション等も請け負っているところであった。

 再度拒絶されるか、予算を大幅に超えるかのどちらかであると、大きな期待もせず、次の日、彼らを待っていた。

 

 次の日現れたのは、タヌキおやじと細身で神経質そうな男性というイメージの二人組であった。販売担当のタヌキおやじの方はおもむろに巻き尺を取り出すとバスルームの寸法を測り始めた。

 

 「ホテルのように大理石でピカピカのバスルームにして下さることは技術的に可能ですか?」

 とわたしが訊ねると彼は

 「難しいね。何で、普通の白にしないんだ?」

 

 私はそれを聞いて多少不安になった。この人の頭にはとんでもない古臭いデザインしかないのでは、と猜疑的になった。

 

 「出来ないってことですか?」

 

 彼は数秒考えたあと言った。

 「出来ないこともないけどね。でもそれはあんたと僕がここで一緒に住むってことが条件になるけどね」

 

 私は彼のその一言でこの業者に決めた。

 

 他の業者の人間は、皆、ビジネスライクで融通が利きそうになかった。この人ならば多少、難しい事もやってくれそうだ、と直感した。

 果たして、その直感は珍しく命中した。

 トラブルがあると彼はすぐに駆け付けて来て、状況の許し得る限り最善な方法で解決し、さらにいろいろと割引をしてくれた。

 

 神経質そうなほうの男性の方は配管技術の正確さにおいてはかなり名声のある人らしく、1900年初頭築の建物の複雑な配管に関しても熟知しており、普通の配管技術者なら出来ないようなこともやってくれた。

 こちらの方は常に虫の居どころが悪そうであった。

 

 結果的には大理石は床には敷かなかった。滑りやすく危険であるからではない、大理石よりもさらに滑りやすい材料を使用したからだ。しかし大理石は壁に埋めた。

 以下の写真は以前のマンションのバスルームの床である。填め込んだのは疑似大理石の人工マテリアルである。大理石よりは高額であるため、大きい面積には使えない。

 

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 バスルームの床というのものは排水が出来るように排水溝に向けて緩い勾配をつけなければいけないものなのである。

 そのため私のバスルームのような狭い面積で、その勾配を作るためには私の買った大理石は脆弱かつ大きすぎた。

 

 

 洗面台等は全て異なるネットショップで注文した。

 日本と違い、こちらの配達時間は8時から17時までのいつか、というものである。

 配達は毎日のようにあったが、当時は自宅勤務というコンセプトもなかったので配達の人から連絡が来たら自転車を飛ばして家に戻った。

 とても重要な会議に出席していた時に突如連絡が来たときは会議を中座した。

 日本と違い、不在の時には再配達を按排するのが大変厄介なのだ。そして配達が遅れると取付工事も遅れてしまう。

 

 注文したものが代理店(スーパーマーケットの郵便コーナー)に配達されたときなどは、時間の制限は無かったが、代理店は近くではなかった。

 一度、デンマークから注文したものが届いているという通知が届いたので深慮もせずにハンドバッグ一つを持って代理店に出掛けた。

 

 代理店には便器を含むトイレ一式が届いていた。壁から吊るす方式のものを注文したため通常よりも設備が多かった。

  

 これには唖然とした。

 タクシーなど呼ぼうにも近すぎて乗車拒否をされると思い、しかたなく買い物カートを借りて数往復した。重いのでカートは真っすぐ進まない。

 

 実際にリノベーションを担ってくれたポーランド出身の若い青年たちはとても優秀であり、一人は英語も話せたので意志の疎通も楽であった。

 彼らは私が希望していた通りに仕上げてくれた。お礼として時々ケーキを焼いて一緒に雑談したことなどが寄与したためか、最後までしっかりと仕事をしてくれた。

 

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 さて仕上げは、上のサンプル写真のような雰囲気になった。

 私のバスルームはこれよりも小さく、窓もバスタブはない。

 彼らの提案の通り、壁には大理石と白いタイルを両方使うことにした。大理石だけだと暗い印象になってしまうからであるという。

 

 結局、そのセールスマンのタヌキおやじは私の希望を叶えてくれた。さて、私はその男と一緒に住むことになったのか。

 

 残念なことに、こだわりの多すぎる女性は面倒くさい、ということで奥さんのもとに逃げられてしまった。

 

 しかし私には(とても小さいが)ホテルのようなバスルームが残された。

  

 

europanadeshiko.hatenablog.com

 

 

ストックホルムの美しい外観を紹介する動画を参考に引用させて頂きます。

 

www.youtube.com

 

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写真提供 Gregory Butler, noh950, Kirkandmimmi, George Anastasopoulos

 

 

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